日本のサンゴ礁
日本には何種のサンゴが分布しているのか
琉球列島には壮麗なサンゴ礁が発達している、サンゴ礁とはサンゴという生物が形成した地形を表す言葉で、サンゴという生物自体は本州沿岸にも分布している。サンゴ礁の分布しない東京湾にも、田辺市天神崎にも生育している。日本には何種のサンゴが分布しているのか、その目録が完成したのは1992年であった(Veron, 1992)。この目録は英語で書かれたモノグラフなので、一般市民にはほとんど知られていないし、書店に並ぶこともない。
トゲコモンサンゴとミスジチョウチョウウオとネッタイスズメダイ(黄色)
日本語で書かれ、一般市民が購入することのできる文献が1995年に出版された(西平守孝&J. E. N. Veron, 1995)。サンゴの分類体系の見直しはスクーバ潜水が盛んに行われるようになった時代にまずオーストラリアで始まった。Veronとその共同研究者たちは、日本列島に匹敵する規模のグレートバリアリーフで、サンゴを種のレベルまで記載していった。その成果が1976年から1984年にかけて、5巻のモノグラフとして刊行された。研究者がサンゴの種を同定する際の共通の基準がここになってやっと示されたのである。サンゴ骨格のモノクロ写真が主体の文献で、日本の研究者も次々と入手していった。Veronは5巻のモノグラフを発表した後に"Corals of Australia and the Indo-Pacific"というタイトルの本を1986年に出版した。これにはカラー写真が簡潔な説明文とともにレイアウトされていて、初学者にとって最良の入門書である。
ユビエダハマサンゴとイトヒキテンジクダイ
Veronと共に「日本の造礁サンゴ類」(西平守孝&J. E. N. Veron, 1995)の出版した西平守孝は石垣島の出身である。その本のあとがきに彼はこう記している「造礁サンゴやサンゴ礁は、なにも一部専門家の調査研究の対象として存在するわけではない。その扱い、またそれとのかかわりは多様である。多くの人々が、多様なかかわりをこの動物やこの動物が生息する環境と結んでいただくように望みたい。造礁サンゴの美しさ、脆さ、強靱さを知り、サンゴ礁や海岸を身近に感じ、その保全に思いをはせていただきたい」。日本各地で協力者をえて、この本は完成した。「天神崎には60種をこえるサンゴが生息している」、この報告を可能にしたのが、1970年代から脈々と続いてきた分類・記載の地道な仕事なのだった。
アオサンゴ(骨格が青いのでこの名がある)、白い触手を出している
石垣島のサンゴ礁
石垣島には長い滑走路のある大きな空港がない、石垣空港に発着できるのはボーイング737クラスの小型ジェット機だけである。沖縄那覇空港は滑走路が長く747クラスの大型機も発着できる。大型機が発着すれば多くの観光客が誘致できる、島の農産物を大都市圏に直接出荷できる、島の経済に大きく貢献する可能性がある。長い滑走路が欲しい、それをどこに造るのか?この問題で石垣島は揺れている。発達したサンゴ礁の上に滑走路を造成すれば、かなり簡単にこの問題が解決できる。最初に注目されたのか白保のサンゴ礁であった、この広大なサンゴ礁を埋めたてて新空港を建設する計画があった。
白保のサンゴ礁にはアオサンゴの大群落が存在する、これは"Corals of Australia and the Indo-Pacific"でVeronがおそらく世界最大の群落であると言及している。Veronは1989年に白保のサンゴ調査に来日し、日本のサンゴ礁保護への提言を行っている。「琉球列島の造礁サンゴの種類はグレートバリアリーフよりも多い、しかし残念ながら琉球列島のどのサンゴ礁も、グレートバリアリーフほど慎重に管理されていない。日本で見られる造礁サンゴのうち少なくとも3分の1は、不安な状況にあり、もし今日の環境破壊が続くとしたら、将来、深刻な危機に瀕することになる。(中略)白保サンゴ礁は、世界でもっとも種の多様性に富んだサンゴ礁複合体の一部をなしている。そしてここでは現実的な保護を継続的に行うことができる。このサンゴ礁の保護にしくじれば、地球上のサンゴ礁の保護の歴史に汚点を残すことになる」(白保のサンゴ礁、1995 、WWFネイチャーシリーズ2)。
ハナミノカサゴ、背鰭の棘には毒がある
民間自然保護団体のWWF Japanは白保にサンゴセンターを建設し、サンゴ礁の調査・研究の拠点として、サンゴ礁をめぐる文化を守り伝える地域コミュニティセンターとしての使用に供しようとしている。センターは個人からの募金も集め、2000年4月に開所式を迎えた。
サンゴ礁の保全にわれわれが貢献できること
琉球列島のサンゴ礁が世界的に貴重な生物群集だと理解し、このサンゴ礁の保全に何か手助けをしたいと願う人は、いったい何をどうすればいいのだろうか。それには先ず保全したいと願うサンゴ礁に行くこと、そして潜ることだ。スクーバ潜水にはライセンスの提示を求められるので、まずはマスク・フィン・シュノーケルの3点セットを手に入れて、素潜りをすることだ。
ここからフィンを付けて海へ、白保のリーフは広大だ
サンゴの種まで同定したいと思うレベルまで来たら、水中カメラを手に入れること。サンゴは小さなイソギンチャク(ポリプ)が石の共同住宅に住んでいる(群体という)。種の同定には群体の形よりも、個々のポリプの形状が大切である。直径数mmのポリプを撮影するための50mmマクロレンズを装着したカメラをハウジングに入れて撮影する。一般に入手できる図鑑を駆使して、自分が撮影したサンゴを同定していくこと、これをきちんとこなしておけば、サンゴ礁の海で研究生活を始められる。
高校生でも受け入れてくれる施設が白保のサンゴセンターを始め、いくつかある。まずはフィールドワークとはどんなものかを知るために遊学してみることを勧める。一部の研究者だけでは、琉球列島のサンゴ礁など広大すぎて守ることはとても困難である。たくさんの高校生がサンゴ礁を訪れるのは、考え得るなかで最高の部類のサンゴ礁保全事業といえる。人はそれぞれに生き方が違うから、サンゴ礁の保全へのかかわり当然も違う。「心にサンゴ礁をもつ人」が増えることが、人の心が変わることが、サンゴ礁の保全にもっとも貢献することである。
ハマサンゴの隠れ家とルリスズメダイ
参考文献
西平守孝・J. E. N. Veron (1995) 日本の造礁サンゴ類、海游舎、東京、439pp
西平守孝他(1995) 白保のサンゴ礁、WWFネイチャーシリーズ2、WWF Japan、東京、48pp
Veron, J. E. N. (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson, Sydney, 644pp
Veron, J. E. N. (1992) Hermatypic corals of Japan. Aust. Inst. Mari. Sci. Monogr. Ser., 9: 1-234
トゲスギミドリイシの群落
補足
サンゴは刺胞動物門に属し、イソギンチャクと極めて近縁で花虫綱に分類されるものが大部分である。
しかしヒドロ虫綱に属するサンゴもある。サンゴ礁を形成するサンゴはその
分類的な地位に関わらず、造礁サンゴと呼ばれる。炭酸カルシウムの骨格を形成してその
中に小型のイソギンチャク(=ポリプ)が住むのである。かれらは動物でありながら、体
内に単細胞の褐虫藻を持つ(内部共生という)。褐虫藻の光合成と同時に骨格の石灰化が
早く進行すると考えられている。褐虫藻をもたない非造礁サンゴは石灰化が遅い。
昼間は褐虫藻による光合成で、夜間は触手を伸ばしてプランクトンを捕食する、これが造礁サンゴの一般的な生活である。したがって造礁サンゴは動物でありながら植物のように光をめぐって競争する。同じ種でも群体の形は生息深度が大きくなって、光の量が少なくなると変化する、波の強さが異なると変化する。これがサンゴの分類を困難にしてきた。
いまでは、サンゴのポリプの形状と骨格の構造を精密に検討して分類がなされている。
サンゴの分類的地位については、生物学事典第4版、岩波書店巻末の生物分類表を参照
サンゴに依存する魚たち